ステロイドの薬がどのように皮膚炎に効くのか調べてみました。内服(飲み薬)と外用(塗り薬)では効き方や副作用のあらわれ方が違うので、このページでは塗り薬だけの説明に絞ります。
物質としてのステロイド
ステロイドとは
ステロイドとはステロイド核と呼ばれる構造を持つ有機化合物の総称です。ステロイド核を持つホルモンのことをステロイドホルモンと呼び、塗り薬に含まれるステロイドはこのステロイドホルモンのことです。実はコレステロールやビタミンDもステロイドの一種です。
ステロイド核の構造は下記の図のようになっています。
※A,B,C,Dは環の名前を示しています。
ステロイドホルモンは小さい物質であるため細胞膜を通過することができます。体内で副腎、精巣、卵巣などから分泌されており、コレステロールから生成されます。
関係ありそうな用語
雑に関係しそう、またはややこしそうな用語の説明を書いていきます。
ホルモンとは
ホルモンは生体内で情報伝達に使われる有機化合物の総称です。その役割上、体内には微量しか存在しません。そのため役割がはっきりとわかっていなかったり、まだ見つかっていないホルモンもあります。
※焼肉でのホルモンは内臓肉(モツ)の意味です。
ビタミンとは
ビタミンもホルモンと同じような役割をする有機化合物です。両者の違いは体内で作られるかどうかです。ホルモンが体内で合成されるのに対して、ビタミンは合成されません。そのためビタミンは食事で摂取するしかありません。
この説明からわかる通り、体内で生成されているビタミンDは、実はビタミンではなくホルモンです。
コレステロールとは
コレステロールは脂質の一種であり、細胞膜の主成分であったりホルモンの原料として使われていたりします。コレステロールはおよそ3分の2が肝臓と小腸で糖質や脂質を材料として合成されます。残りは食事から摂取されます。
タンパク質とは
タンパク質はアミノ酸が連なってできた物質群です。大きさはそれぞれのタンパク質によって様々ですが、重さにしてホルモンの数十倍~数百倍は大きいです。
タンパク質は生物の機能的な役割を担っています。筋肉のようにものを動かす、酸素など特定の栄養とくっついたり離れたりすることで運搬する、DNAからタンパク質を作る、という機能はすべてタンパク質によるものです。
タンパク質はそれぞれの役割を持っていて、人のタンパク質は10万種類くらいあると言われています。
骨格、皮膚、細胞壁など、形を作るだけで動く機能があまりないものは、タンパク質以外のものも多いです。
DNAとは
DNAはタンパク質の設計図が書かれています。人ごとにDNAが異なるので、どのタンパク質をどれだけ作るかが変わってきます。だいぶ雑な説明です。
作用機構
概要
核内の遺伝子に直接作用するため、作用が大きく持続時間が長い(1~数日)薬として役立ちます。細胞内には入っても血管に吸収されることはないので薬は塗った部分にのみ効果があります。同様に副作用も塗った場所にしか現れません。
ステロイドの塗り薬が肌荒れに効く原理は以下の二つの機構からできています。
1.炎症反応の抑制
肌が荒れるということは肌が過剰な炎症反応を起こしているということです。炎症反応が起きる大雑把な流れは下記のようになっています。
- 細胞内でカルシウムイオンが増えてMAPキナーゼという酵素が活性することで細胞質型PLA2という酵素が活性化します。
- PLA2が細胞膜からアラキドン酸という脂肪酸をはがします。
- アラキドン酸が増えると肌の炎症反応が起きます。
ステロイドは1のMAPキナーゼの活性化を阻害しています。それによって炎症反応が抑えられています。抗炎症作用と呼ばれます。
2.免疫機構の抑制
もう一つ、ステロイドには炎症反応を抑える流れがあります。それが免疫機構の抑制です。免疫反応の一部を下記に記します。
- AP1やNF-κBというタンパク質がDNAにくっついてRNAを作ります。
- RNAができると炎症性サイトカインというタンパク質が生成されます。
- 炎症性サイトカインが増えると炎症反応が起きます。
ステロイドは1のところでAP1やNF-κBがDNAにくっつくことを防ぎます。 こちらは免疫抑制作用と呼ばれます。
※RNAはタンパク質の設計図で、ここでは炎症性サイトカインの設計図を意味します。
ステロイドの副作用
ステロイド塗り薬の副作用を箇条書きにします。
- 皮膚がうすく弱くなる。
- 皮膚の毛細血管が太くなり赤く見える。
- メラニン色素が少なくなり、皮膚が白っぽくなる。
- 毛が太く、多くなる。
- ニキビができてくる。
- 水虫やカンジダなどのカビがつきやすくなる。
作用機構の説明に書いたとおり、ステロイドは炎症反応や免疫反応の一部の反応を抑えています。生体内の反応の流れは枝分かれしているため、前述のフローに書かれていない部分の反応も止まってしまいます。
尚、塗り薬のステロイドはリバウンドはないとされています。使用をやめて肌が悪くなるのは薬が効いていたためです。血管へそのまま吸収されることはほとんどないため、副腎等の内臓に影響することもないと思われます。
さいごに
ステロイド外用薬には皮膚の効き方によって5つのグレードに分けられています。作用機構で説明した抑制の強さが異なるはずなので、それはそれぞれの酵素への作用の強さが異なるからだと思うのですが、なかなか情報が見つかりませんでした。実験をしていると思うのでたぶん探せばあるんでしょうけど、ひとまずあきらめます。
炎症機構は難しいですね。もっと勉強したいと思います。
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