アスペルガー症候群は広汎性発達障害のうちの一種です。対人関係に問題があること、強いこだわりを持つこと、という特徴があります。スラング的にアスペと呼ばれることもあります。
ちなみに最新の診断基準(MSD-5およびICD-11)では、アスペルガー症候群という疾患名はなく、自閉症スペクトラムとして統一されます。
特徴
社会的能力の障害
他者に適切な反応ができない
アスペルガー症候群の方は感情を表情や口調で表すことができず、相手の行動に対して適切な反応をすることができません。また、視線を合わせることが苦手、他人に関する関心が乏しい、などの特徴もあります。そのため他者との親密な関係がうまれにくくなっています。
共感性が乏しい
アスペルガーには共感性が乏しいという特徴があります。共感は心の共感である「情動的共感」と理屈の共感である「認知的共感」の2種類があります。「認知的共感」とは相手の立場や状態を理解して相手の視点から心理状態を想像することです。
子供の共感能力をテストするための、有名なサリー・アン課題という検査があります。
サリーが冷蔵庫に入れていたお菓子を、サリーの外出中にアンが戸棚へ隠します。帰ってきたサリーがお菓子を食べようとしたときどこを探すでしょうか。
というものです。認知的共感が弱い人は戸棚から探す、と答えてしまいます。この検査では認知的共感を検査しており、アスペルガーが苦手とすることの一つです。
表情から感情を読み取れない
アスペルガーは認知的共感以上に情動的共感が苦手です。アスペルガーは顔や表情の認知ができません。顔は社会的な認知において最も重要なものであり、気分、感情、人格など多くの情報を含んでいます。そのため健常者は顔の認知能力が高いです。
顔の認知能力を調べるために風景の写真と人の顔の写真の記憶力を調査した実験があります。その結果普通の人は人の顔の記憶の方が遥かに優れており、一方でアスペルガーは両者の記憶に違いはないという結果になりました。
このことからもアスペルガーが人の顔を特別視していないことがわかります。
コミュニケーション能力の障害
アスペルガーは自閉症とは異なり言語の発達の遅れはありません。
アスペルガーは話すことに消極的なわけではなく、タイプによっては非常によくしゃべります。ただし、相手と言葉のやりとりをするわけではなく、自分の関心のあることを一方的にしゃべってしまいます。
アスペルガーは話したり書いたりする能力に比べて言葉を聞いたり理解する能力が低いです。そのために一方的にしゃべってしまうことがあります。
アスペルガーは自分の感情や感覚の自覚が弱いです。そのため会話に感情を込めることが苦手であり、理屈っぽい話し方になってしまいます。自分の感情が自覚できない状態を「失感情症(アレキシサイミア)」と言い、アスペルガーはこの傾向にあります。
自分の感情や身体に関して無頓着であり、適切な休息をとれずにうつ病や心身症になりやすいです。
尚、2~3歳の時点で言葉の遅れがある場合は高機能自閉症となります。アスペルガーと診断基準は分けられており、アスペルガーは言語性知能が優位であるのに対し、高機能自閉症は動作性知能優位とされます。ただし、症状や診察・治療方法に違いがあまりないため、同一のものとして扱うことも多いです。
強いこだわり
アスペルガーは同一の行動パターンに固執します。例えば体を前後に揺らしたり、物を一定のルールで並べたりします。この行動は脅迫行為とは異なり、本人が苦痛を感じておらず、むしろこの繰り返し行為によって安心感を得ています。
また脅迫行為の場合は人に見られることを避けようとしますが、アスペルガーの繰り返し行為は人前でも隠そうとしません。
狭い領域に興味を持つという特徴もあります。何かに没頭したときは自分の健康状態すらも犠牲にして打ち込み、専門家顔負けの知識を有することも少なくありません。人より物に関心がある、細部にこだわる、秩序やルールを好むというアスペルガーの特性からその分野の第一人者として活躍することもあり、著名人や歴史的人物の中にもアスペルガーが多くいると考えられています。
合併症
アスペルガーは他の精神障害が合併しやすいことが知られています。
うつ病、ADHD(注意欠陥多動性障害)、分離不安障害、チック・トゥレット症候群、パニック障害、強迫性障害など様々です。これはアスペルガー元来の性質に加え、周囲から特異の目で見られることも多くのストレスにさらされているためです。
日本ではアスペルガー症候群は0.5%程度とされています。アスペルガー症候群の傾向を持つ人物は多いですが、正確な診断基準を満たす割合は少なく、大半が特定不能の広汎性発達障害と診断されます。
アスペルガー症候群の外見
アスペルガーは頭が大きく端正な顔立ちをしている傾向にあります。青年期では童顔で表情が乏しいため不気味な印象を持たれますが、さらに年齢を重ねると独特のオーラにより魅力的に見えることも珍しくないようです。
また、アスペルガーは動作が独特であり、動き方がぎこちなかったり機械のような印象を与えたりします。
アスペルガーを含め、広汎性発達障害の方は頭が大きい傾向にあります。発達障害の頭が大きいのは前頭葉と扁桃体が肥大化しているためです。
ただし、大きいからといって優れているというわけではありません。脳細胞は成長するにつれて不要な細胞が除かれていきますが、発達障害はその除かれるプロセスが機能しておらず、不必要な神経細胞が残ってしまっていると考えられています。そのため脳の機能に障害が発生します。
扁桃体は表情を読み取る、顔を区別する、などの社会的に必要な認知の役割を担っています。人の目の写真をみたとき、普通の人は扁桃体が活発に使われるのに対し、アスペルガーは扁桃体がほとんど使われていません。人の目をただの物体と同一に考えているためです。
前頭葉は理性、感情、情報の整理など人の行動を司る機能を持っています。行動を計画することや自分を客観視することが苦手なのは前頭葉が正常に機能していないためだと思われます。
発症の要因
アスペルガーを含め発達障害の発症に育て方は関係なく、遺伝的要因が大きいと考えられています。二卵性双生児で一方が自閉症であり、もう一方が自閉症である確率が1割未満であることに対し、一卵性双生児では6~9割となっています。
発達障害の発症は近年急激に増加しています。はっきりした原因はわかっておらず、発達障害の傾向をもった男女が結婚しやすいこと、環境ホルモンや薬品による胎児への影響など様々な要因が挙げられています。
さいごに
発達障害、特に知的障害のないアスペルガーは環境の適応や社会発展に優れた種族であるとも考えられます。各分野の研究者や近年のIT分野ではアスペルガーの活躍を無視することができません。
アスペルガー本人と周囲の方の双方がアスペルガーの特性を理解して、お互いの不快感をなくすことでアスペルガーが持つ高い能力を十分に発揮することができるでしょう。
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