自閉症とワーキングメモリ

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 自閉症は、 社会的相互作用およびコミュニケーションの障害として、そして制限された反復的な行動によって診断される神経発達の変化です 。
 ほとんど英語のWiki「Autism and working memory」そのままの内容です。リンクはこちらです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Autism_and_working_memory

 自閉症に関してはこちらのページもご覧ください。

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概要

 ワーキングメモリとは、脳の機能の一つで、複数の一時的な情報を操作できる場所に保持するためのシステムです。このシステムは容量が限られています。
 短期記憶と同じ意味で使われることも多いです。短期記憶が受動的(意識せずに得た情報の記憶)であるのに対し、ワーキングメモリは能動的な情報操作(自分の思考による結果)をした場合も含みます。ワーキングメモリの方が広い概念です。

 ワーキングメモリは、 実行機能(executive function)の一部で、行動を計画したり注意したりするためのものです。
 実行機能とは、複雑な行動をするために思考や行動を制御する脳の機能の総称です。前頭前野に存在すると考えられています。

 自閉症に関する研究は様々あり、実行機能の能力が低いことが分かっています。その原因にはワーキングメモリの減少が考えられますが、自閉症児とIQが同程度の健常者を比較するとワーキングメモリが減少しているわけではないようです。
 社会的な解釈をする能力が限られているために混乱してしまい、ワーキングメモリや実行機能が限定されているのかも知れません。

生理的基盤

 自閉症者のワーキングメモリの原因をさぐる研究がなされています。自閉症者の脳の主要な機能不全は、扁桃体複合体の神経機構によるものであると考えられます。

 扁桃体は内側側頭葉にあり、内側側頭葉、特に海馬領域が情報処理を担うため、扁桃体は情報を符号化する能力に影響を及ぼす可能性があります。

 海馬は、記憶の符号化および記憶の統合の調整において極めて重要なので、どんな障害であっても自閉症者の処理能力および情報処理能力に劇的な影響を及ぼす可能性があります。

 海馬傍領域の神経活動の減弱化が自閉症者の情報の異常な組織化と関係する、ということを示唆する研究もあります。
 左海馬領域(傍海馬回を含む)は分類、関連付け、および海馬への情報の送信の役割を担います。そのため、これらの領域内の異常な活動や機能不全は、情報組織化の有効性の度合いに影響しているかもしれません。この説明は海馬の異常な活動や機能不全を示す他の研究とも一致しています。

 さらに、「社会的知性のための神経基盤」と呼ばれる、人々の表現や意図を総体的に解釈する領域の中に異常な回路があることを示唆する研究もあります。扁桃体、眼窩前頭皮質、および優れた側頭溝と脳回の間の相互作用により、個人的な相互作用のために社会的情報を処理することが可能になります。

 自閉症者にはこの構造に問題があり、顔の表情、ボディーランゲージ、そして会話の言い回し(例えば皮肉)に意識的に気づくことができません。
 しかし、自閉症の治療または社会的な言い回しのトレーニングを通じて、社会的理解を部分的に向上させることができるようです。

特性

グローバルワーキングメモリの特性

 自閉症者は記憶の統合の補助のために文脈上の情報(スキーマ)を使わないため、意味的に似た手がかりに頼る可能性が低いです。自閉症者は一見別々の情報を区別したり連想したりします。

 実行機能のレイテンシーに着目した研究によると、自閉症では時間的順序、情報源、自由想起および作業記憶において障害があるようです。
 しかし、被験者たちには十分な短期・長期記憶能力、手掛かりの想起能力、新しい事柄を学ぶ能力がありました。つまり、グローバルワーキングメモリの不足と特定の社会的知性の障害の二つの障害があり、前者が後者を引き起こしたり、反対に後者が前者を引き起こしたりしているようです。

 自閉症者は、意味的連想ネットワークに頼ることが少なく、慣習的な単語 – 単語連想(例えば、オレンジ – アップル)にあまりとらわれていません。自閉症の人によって使用される独自の変換の能力があります。
 これは内側側頭葉の異常が原因である可能性があります。そのため単語のつながりがないわけではなくて、独自で強固な関連付けをしています。
 ある研究者はこれを「 弱い中央コヒーレンス 」という言葉で呼んでいるようで、これは文脈で情報を処理する傾向が低くなり、より高いレベルの意味が統合されることを意味しています。
 これは自閉症者が一見バラバラな情報の共通点に気づきやすいという特性を示すかもしれません。

中央実行系と実行機能

 自閉症スペクトラム障害は、部分的にはワーキングメモリの機能不全によって引き起こされると考えられています。ですが、それに疑問を呈する結果もありました。いくつかの研究ではワーキングメモリが正しく機能していないことを示す一方で、高機能自閉症ではその現象が確認できていません。

 ある研究者が行ったテストでは、関連情報に焦点を合わせる能力が乏しい、すなわちワーキングメモリの実行面での欠陥があるという結果が示されました。
 自閉症者と同じ症状は近親者にも現れる可能性があるそうです。ある研究で、自閉症者の兄弟姉妹は、最新の情報を受けてカテゴリーに集中し概念化する能力が限られていることが発見されました。これらの結果を考慮すると、自閉症者の認識能力の欠如は近親者と同じものであると考えることができます。

カテゴリ統合

 上記のことから自閉症の人は分類に問題があるように見えます。しかし、実際には情報のカテゴリー分類は可能であり、非自閉症の個人と同じ認知レベルでできることが研究により示されています。

 自閉症者は資料を学ぶのにより多くの試行錯誤を必要としますが、非自閉症者とは異なる学習戦略を用いることもできます。一度習得すれば、実行できる分類のレベルは非自閉症者と同等です。

 自閉症の人が非自閉症者とは異なる学習スタイルを採用しているという考えは、結果として生じる認知能力の平均レベルを説明することができます。しかしこれは、IQレベルが低い人ではテストや測定が難しいため、高機能自閉症者にしか適用できません。

 非自閉症者が森を木の集まりとして見るのとは対照的に、自閉症の人は1つの木、別の木、そして別の木を見るので、非自閉症の人々と比較して複雑なタスクを処理するには多大な時間がかかります。
自閉症者は複雑で多元的な概念の単一の部分に集中しており、これを抑制することができないため、注意または抑制におけるワーキングメモリ不足と見なされてしまうようです。

視覚的および空間的記憶

 空間作業記憶の不足は自閉症者やその近親者によく見られます。空間認識と記憶能力を必要とする他者の運動の再現も、自閉症者にとっては難しい場合があります。

 ある研究により、アスペルガー症候群の人々は空間作業記憶障害を有することが判明しました。このことは自閉症者の非言語的知能におけるより一般的な障害の指標となり得ます。
 これらの結果にもかかわらず、自閉症者は地図学習やナビゲーション付き実生活迷路に関する手がかり経路想起などの特定の課題において、非自閉症者より優れていることがわかっています。

 非自閉症者と比較して、空間的記憶課題に対する自閉症の人の成績は課題困難の増大に直面してより早く劣化する、という理論が考えられています。ワーキングメモリが個人の問題解決能力に関連していること、そして自閉症がこの分野における障害であることを示唆しています。

 自閉症者は視覚情報処理に対する局所的な部分、すなわち全体的な特徴よりもむしろ細部の特徴を処理することを好むように思われます。物や場面を見ても全体像を優先しない、という説明ができます。あるいは情報が複雑すぎるため、短期の視覚的記憶能力が足りていない可能性もあります。

 自閉症者には人の顔の認識に関しても障害があります。紡錘状回が非自閉症者と異なっていることが示されており、これが顔認識問題に影響しているかもしれません。

聴覚と音韻の記憶

 自閉症者における音韻的作業記憶に関する研究は広範囲にわたり、時に矛盾しています。
 いくつかの研究では、空間記憶と比べて言語記憶と内的音声領域は使われていないことを示しており、内的音声の使用には制限があるとする研究もあります。
 他の研究では、意味処理よりも音韻処理を得意とする自閉症者もおり、その結果がサヴァン症候群の発達異常と類似している、としています。

 同程度の知的レベルの非自閉症児と比較して、自閉症児は提示された一連の写真を思い出すテストにおいて優れていました。しかし写真の中に刻まれた文字を思い出すことに関してはそうではありませんでした。
 検査中に競合する言語のタスクを与えたところ、自閉症の子供たちよりも非自閉症の子供たちのパフォーマンスが悪化しました。また非自閉症者のほうが単語長の影響が大きく出たようです。

 自閉症児の言葉として記憶される可能性がある刺激(例:シャベル、猫)を含む自己順序付けされた指示課題は、非自閉症の子供と比較してスコアが損なわれていました。対照的に、自閉症児は空間記憶検査で非自閉症児よりも有意に低いスコアを記録しました。
 空間記憶課題だけでなく言語記憶も試したところ、実験群と対照群において、空間記憶能力に差が見られたが、言語記憶に関して群間に有意差は見られなかったようです。

 また、子供と大人の参加者の両方で実験を行いました。自閉症は発達障害なので、自閉症で成長した成人の人生の経験が記憶能力を変える可能性があります。
 彼らが彼らの大人の対応物と異なる結果を持っていたかどうか見るために子供たちと別々に実験しました。WRAML (記憶と学習の広範囲評価)テスト、特に子供の記憶をテストするために設計されたテストを使っています。
 検査結果はすべての年齢層で同様であり、非自閉症と自閉症の参加者との間の有意差は、言語作業記憶ではなく空間記憶のみに見られました。

 自閉症の子供たちは、言語のワーキングメモリとストーリーリテリング(ストーリーを自分の言葉で言い直すこと)に関して、非自閉症者よりも悪い成績を示しました。
 言語的なワーキングメモリをテストするための3つのタスクで、自閉症の子供たちは年齢相当のレベルよりかなり下のスコアでした。
 ただし、自閉症児は低いスコアを示していますが、ワーキングメモリー自体ではなく語彙の欠如がスコアの低下に寄与していることを示唆する情報もあります。

 自閉症者はいくつかの作業記憶課題に対して、言語的手がかりより視覚的手がかりを使用する可能性が高いという研究があります。これは文字によるNバック記憶課題において、左頭頂領域に対して右頭頂領域の活性が高いということに基づいています。

反対の結果を示す研究

 自閉症スペクトラムがワーキングメモリの障害を持っていないことを示すというデータも存在します。自閉症スペクトラムの人々のワーキングメモリのレベルを測定するテストに曖昧性があると主張する研究者もいます。
 彼らは、テスト自体がテストの完了を妨げている可能性がある場合にのみ、自閉症スペクトラムの人々がワーキングメモリテストのパフォーマンスを悪化させることを発見しました。
 これらの所見は検査の種類と自閉症スペクトラム患者に提示される方法が結果に強く影響する可能性があることを示していることを示します。そのため、自閉症スペクトラム患者のワーキングメモリに焦点を当てた研究のデザインを選択する際には十分な注意を払う必要があります。

 ある研究者たちが行った自閉症スペクトラム患者のワーキングメモリに関する研究でも同様の結果が得られています。彼らの研究は、ワーキングメモリの様々な側面を測定するためにデザインされたテストにおいて、自閉症スペクトラム者とそうでない人の間に有意差がないことを示しました。つまり自閉症者のワーキングメモリは機能しているということです。

 自閉症スペクトラム者のワーキングメモリ機能が低いことを示した実験の結果は、自閉症スペクトラム患者が低い社会的機能スキルを持っていて人間とのやりとりに問題があるためと考えられます。
 人間との対話ではなくコンピュータを利用した実験でこの問題は取り除かれ、より正確な発見が得られる可能性があります。

 別の研究でも、自閉症者のワーキングメモリが損なわれないかもしれないことを示しています。 自閉症者には一部の実行機能障害があるかもしれませんが、ワーキングメモリにはなく、むしろ社会的および言語的スキルに問題があるためです。若い自閉症者では言葉の作業能力がありませんが、それにもかかわらず自閉症と非自閉症の個人の実行機能の間に有意差は見られませんでした。自閉症の人にはWMの能力が低いことをほのめかす研究もたくさんありますが、このように反対の証拠を示す研究もあります。

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